ここには、科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書『「社会的アイデンティ
ティ」と「間人」の相関についての日英比較』から、「はしがき」「目次」「概要」「第1章」
を収録した。一部誤植訂正をおこなった。
 なお他に関連するものとして、エイブラムズ氏と濱口氏の会談の模様を報告したものがある。
これは、大阪大学大学院人間科学研究科対人社会心理学講座発行の『対人社会心理学研究』第
1号に収録されたもの(のweb版)である。
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「社会的アイデンティティ」と「間人」の相関についての日英比較

課題番号 10044041
平成10年度〜平成12年度科学研究費補助金(基盤研究(B)(2))研究成果報告書
平成13年3月
研究代表者 柿 本  敏 克
(群馬大学社会情報学部助教授)


Research Report

A comparative study on the contextual and social identity
2001.3.31

Project director: Toshikatu KAKIMOTO

Printed and edited in March 2001 by Toshikatsu KAKIMOTO
Social Psychology Laboratory
Faculty of Social and Information Studies
Gunma University





は  し  が  き

研究組織
 研究代表者: 柿 本  敏 克 	 (群馬大学社会情報学部助教授)
 研究分担者: 矢 崎  弥 	 (山形県立米沢女子短期大学社会情報学科助教授)
 研究分担者: ドミニク・エイブラムズ (ケント大学心理学科教授)
 研究分担者: ケイティ・グリーンランド(カーディフ大学心理学科講師)

研究経費
 平成10年度	1,900千円
 平成11年度	1,900千円
 平成12年度	1,900千円
	計	5,700千円

研究発表
(1) 学会誌など
    柿本敏克 集団間葛藤を引き起こす心理諸過程に関する一考察 現代のエスプリ, 384, 
172-184. 1999年7月

    柿本敏克 集団間関係研究のコミュニケーション論的位置づけ 群馬大学社会情報学
部研究論集, 8, 79-92. 2001年3月
	
    柿本敏克・安藤香織・濱口恵俊 濱口・エイブラムズ会談:「社会的アイデンティテ
ィ」と「間人」の出会い 対人社会心理学研究,第1巻(印刷中)






「社会的アイデンティティ」と「間人」の相関についての日英比較  成果報告書 目次

概要	(4)
研究成果		
第1章 「社会的アイデンティティ」概念と「間人」概念の比較			8
第2章 オーストラリア国のスポーツ体制に関する研究
     --Australian Sports Commissionの設立とスポーツ政策--			11
第3章 〈エイブラムズ氏講演録1〉						27
  (「人はどのように他者とかかわるのか?―人の社会行動理解のためのひとつの社会心理
学的アプローチ―」)
第4章 〈エイブラムズ氏講演録2〉						34
  ("Self-categorisation theory, subjective group dynamics and social identity"のス
ライド資料)
第5章 集団間葛藤を引き起こす心理諸過程に関する一考察				41
第6章 集団間関係研究のコミュニケーション論的位置づけ				56
第7章 「間人度」尺度と関連尺度との弁別性その他				70
第8章 濱口・エイブラムズ会談:「社会的アイデンティティ」と「間人」の出会い 	74
第9章 エイブラムズ教授招聘記							82





概   要

 これは、現時点で日本学術振興会の科学研究費補助金を受けておこなわれた、平成10
年度から12年度にかけての研究課題「『社会的アイデンティティ』と『間人』の相関に
ついての日英比較」の成果報告書である。
 申請時点の平成9年度には文部省科学研究費補助金と呼ばれており、また当時は存在し
た「国際学術研究」のうち「共同研究」の分類で申請された本研究計画は、本来、海外の
研究者との学術的交流を促進すべく、渡航費・招聘費用を研究費の主たる支出区分とする
ある意味で特別な補助金であったと筆者は理解している。それが形式的な面では、途中で
国際学術研究が廃止されて基盤研究に統合され、さらに文部省から日本学術振興会へと科
学研究費補助金自体の補助母体が変更になるという、3年間の研究期間にしてはあまり例
のないような急激な変化にされされた。しかしこうした外面的な変化にも関わらず、本来
の渡航費・招聘費中心であるという補助金の性格は幸いにも維持され、その性格を十分利
用して研究代表者および分担者は3年間の合計で、のべ6度の海外派遣および招聘をおこ
なった。研究代表者は平成12年度始めに勤務先がそれまでのものから現在のものに変わ
るという、個人的には往々にして少なからぬ困難をともなう大きな変化を経験したが、幸
いにして最終年度であったこの平成12年度にも海外派遣と招聘を一つずつおこなうこと
ができた。
 この研究課題の当初からの真の目的は、大きな文脈でいうと、集団・社会と個人の関係
に関する西洋的な知的伝統のなかでは比較的新しい潮流である「社会的アイデンティテ
ィ」を巡る研究諸領域と、日本的な社会・集団や人間関係の基底に関する濱口恵俊氏によ
る理論的人間モデル「間人」(かんじん)に関わる研究領域という、2つの地理的・文化
的にも大きく異なる知的な伝統を、学術的にも人的にも交流させることにあった。
 本報告書では、こういった意味での学術交流の3年間の成果をその実態に応じて多少な
りとも収めることにつとめた。

 詳細は各章に譲るとして、まずここでは簡単にそれぞれの紹介をしておく。
 まず第1章では、「社会的アイデンティティ」と「間人」の互いの理論的・実証的関係
について検討した論考を置いた。両者は、ともに自己と他者、集団と社会の関係を扱う概
念であり、いわゆるミクローマクロ問題の鍵概念になりうるような可能性をもつものであ
る。報告書の冒頭を飾る章として、そもそもの研究計画の目的である両概念の関連につい
て簡単に考察した。
 第2章では、研究分担者の矢崎弥氏によるオーストラリアのスポーツ体制に関する論文
を収録した。スポーツ聴衆行動、なかでも集団対戦型スポーツの場合には特に、集団自尊
心や社会的カテゴリーに基づいた対抗意識が如実に現れることは周知の事実である。矢崎
氏にはオーストラリア国と日本国におけるこれらの関係を文化比較的に検討していただい
たが、本章ではその基礎作業としての、オーストラリア側のスポーツ体制に関する論文を
寄稿いただいた。実際の比較作業に関しては、本報告書には間に合わなかったが、別稿が
準備されつつあるとのことである。
 第3章では2001年2月2日(金)午後2時20分から1時間半を使って群馬大学社会
情報学部棟106教室にて開催された、もう一人の研究分担者であるエイブラムズ氏によ
る講演の記録を採録した。この講演は群馬大学社会情報学部社会・情報行動講座主催の特
別講演としておこなわれた。司会は講座主任の黒須俊夫教授、通訳と解説を研究代表者が
おこなった。
 第4章では2001年2月3日(土)午後3時30分から1時間半を使って立教大学池袋
キャンパス8号館8201教室にて開催されたエイブラムズ氏による講演、および同5日
(月)午後4時30分から同じく1時間半を使って大阪大学大学院人間科学研究科東館に
ておこなわれた講演の際に用いられたスライド資料が採録された。
 第5章には1999年7月発行の『現代のエスプリ』(至文堂)384号に掲載された研究
代表者の筆による集団間葛藤における心理過程に関する論考の最終段階の草稿を再録した。
集団形成における社会的アイデンティティやカテゴリー化の意義を述べ、また集団場面に
おいて社会的アイデンティティ等を媒介として集団間の競争性が生じる心理的メカニズム
の諸特徴を論じた。この原稿では社会的アイデンティティ研究における集団間関係のとら
え方を比較的明確に描写しているため、そこでの人間観、人間関係観がある程度読みとれ
ることが期待される。
 「社会的アイデンティティ」概念が、どのように敷衍されて集団間関係の研究に展開さ
れているかを知ることは、同様に日本社会における様々な社会関係を分析する視角である
「間人」概念を用いた研究とのよい比較材料となるであろう。
 第6章では2001年3月発行の『群馬大学社会情報学部研究論集』第8巻に掲載された、
研究代表者による関連論文「集団間関係研究のコミュニケーション論的位置づけ」の草稿
段階の原稿が再録された。この論考は、社会的アイデンティティ概念が大きな意味をもつ
集団間関係の諸研究を概観し、それがコミュニケーション論的にみていかなる特徴をもつ
のか、またいかなる限界と意義をもつのか考察したものである。
 人間関係を西洋流の「個人」と「個人」の間のいわば実利的結びつきと考える見方は、
本章でとりあげたコミュニケーション現象分析の枠組みからも、コミュニケーション現象
全体のごく特殊な形態を把握したものに過ぎないと理解することができるが、こういった
コミュニケーション論という観点も、ともに関係性をとらえる概念である「社会的アイデ
ンティティ」および「間人」概念の共通性と差異性を検討するための契機の一つになると
期待できる。
 第7章では研究代表者が2000年3月7日(火)午後3時より、共同研究者のグリーン
ランド博士の勤務先であるカーディフ大学における博士主催の研究セミナーにておこなっ
た講演およびそこでの検討内容の要約を簡単に紹介した。このセミナーでは広く議論をお
こない、「間人」概念を操作的にとらえるための心理尺度が様々な関連尺度といかに関連
するかを確認する作業が必要なことが指摘された。
 第8章では2001年2月4日の午後4時半から京都の「からすま京都ホテル」1階ティ
ーラウンジ「レインツリー」にておこなわれたエイブラムズ氏と濱口恵俊氏による会談の
模様を抄録した。この内容は大阪大学対人社会心理学講座発行の『対人社会心理学研究』
第1巻に掲載が決定している草稿段階の原稿を再録したものである。
 第9章では2001年1月31日から同2月6日までの1週間にわたりケント大学のエイ
ブラムズ教授を本科学研究費補助金により日本に招聘した際の出来事を、比較的自由に記
述した。この原稿は、通訳として協力いただいた奈良女子大学の安藤香_D氏との共著で、
『実験社会心理学研究』に掲載がほぼ決定している草稿を再録したものである。
 
 以上が本報告書の概要である。ここに収められたもの以外にも、まだまだ含まれるべき
成果が残されているというのが筆者の率直な感想である。この感想の当否については、以
下の各章に目を通した読者がみずからご判断いただけると幸いである。もし仮に事実がこ
の感想の通りであるならば、それらについては今後、別の形で公刊されていくことになる
であろう。

平成13年3月31日  
柿本敏克   




第1章 「社会的アイデンティティ」概念と「間人」概念の比較


 「社会的アイデンティティ」と「間人」概念は、ともに自己と他者、集団と社会の関係を扱
う概念であり、いわゆるミクローマクロ問題の鍵概念になりうるような可能性をもつものであ
る。報告書の冒頭を飾る第1章として、そもそもの研究計画の目的である両概念の関連につい
て簡単に考察しておこう。



人間関係、集団成員性の「間人」モデルでのとらえ方

 日本人の集団主義に関して提唱された人間モデルである「間人」概念(濱口、1982)
の背景には、もともと欧米の研究者から指摘される日本人の集団主義およびそれに関連し
た日本人の自己犠牲的集団への奉仕といった理解の仕方が、西洋流の「個人」概念にもと
づいた誤解に基づくものであると批判がある。
 濱口のいう「個人」モデルでは、人はひとりひとりが独立した行動主体であって、その
自我の境界はいわば生物体としての個体の境界と同じである。それゆえその環境はその個
体の外部にあり、利用・処理されるものである。一方、「間人」モデルでは、人とはそい
ういった皮膚に包まれた生物学的存在にとどまらず、その自己意識は、他主体との関係を
前提にして、あるいはこれを取り込んで成り立つ。また行動の主体として把握されるべき
は、生物学的な意味での個体というよりは、むしろこの生物学的個体と他主体との関係性
である。ゆえに「個人」モデルにおいて環境の一つとして外部にあるとされる他主体との
関係は、「間人」モデルにおいては自己の一部である、と言える。
 以上が筆者の理解する範囲での、「間人」モデルにおける対人関係の要旨である。ここ
で問題となるのは、「間人」モデルにおいて人が関係性を保っている「他主体」が、正確
には何かということである。
 他主体の理解には行動主体の理解を敷衍して適用できると考えられるが、その場合、行
動主体に複数のレベルを想定すべきなのかいなかに疑問が残る。つまり「個人」概念を前
提にしたうえでしばしば想定されるような、「個人−小集団−社会」といったような系列
の各レベルでの主体性に対応するような形で、関係性を前提にした行動主体である「間人」
は複数のレベルでの主体性を想定できるのかという問題である。
 これについて「間人」モデルでは、そもそも理論的には主体性をもつのが個人なのか集
団なのか、といったようには分節化して概念化されていない。そもそもそういった区別が
日本人論の文脈では分析概念として不十分だという主張なのである。しかし「個人」モデ
ルの語彙を用いて敢えて「間人」モデルを解釈することもできる。ここで濱口(1982)
は他主体について「他者や自らの属する組織など」(p.212)と例示していることを根拠
とすると、「間人」モデルでの他主体という概念は所属集団全体と個々の集団成員といっ
た概念をともに含んでいると見なすことができよう。したがって、「間人」モデルで自己
概念の中に取り込まれる「他主体との関係性」とは、「個人」モデルでいう個体としての
個人とより大きな水準での単位である集団の両者を指すことになる。
関係的自己
 この点は近年の社会的アイデンティティ研究の展開の中に、「関係的自己」(Brewer & 
Roccas, 2001)という発想がしばしば見られることを想起すると興味深い。というのは、
これまで社会的アイデンティティ研究の伝統では、集団成員性とは、集団成員個々人との
関係性とは区別された、集団全体のみとの関係性であると考えれられてきたからである
(Karasawa, 1991など)。ここには私見ではあるが、思想史的に微妙な問題がからんで
いると思われる。それというのも、この「関係的自己」概念は、北山(柏木・北山・東,1997
など)らの精力的な活動により、文化心理学が関心を集めだした後、かつ日本人研究者と
の関わりの中で日本的人間関係の発想が社会的アイデンティティ研究に導入されてきたと
いう経緯があるからである。そこには濱口の「間人」概念が直接・間接に反映されている
可能性がある。この点で、もはや現時点では社会的アイデンティティ研究における関係性
と集団成員性の概念を、純粋な形で間人概念のそれと比較することは難しくなっている。
 しかし現在、「関係的自己」という発想を取り入れていない社会的アイデンティティ研
究者や、現在取り入れている研究者でもそれ以前には、社会的アイデンティティ研究で想
定されていたのは、個人は集団全体との関わりを集団成員性の側面とし、集団成員個々人
との関係は対人関係(interpersonal level relationship)として別の側面として、明確に
区別されるものであった。一方で、上で見たように、「間人」モデルでいう「他主体との
関係性」は集団全体との関わりと同時に、個別の集団成員との関係性を含むことになる。
したがって「間人」モデルは、集団成員性と個々の集団成員の両者を含む他主体との関係
性の組み込まれたものとして人を概念化しており、ゆえに間人の自己概念には意識的・無
意識的に集団成員性が取り込まれていると見なすことが可能であろう。

実証的検討

 こういった理論的接合性はそれとして、実証的にも社会的アイデンティティ研究と間人
研究の橋渡しができないかと考え、本研究計画では、初年度後半に日本人被験者四十名の
参加を得た予備的な実験研究をおこなった。集団状況での集団成員としての行動が社会的
アイデンティティと間人概念の双方にとって重要な分析対象となるが、その集団状況の萌
芽的部分を実現する最小条件集団と呼ばれる実験状況において被験者が他の集団成員に対
して示す評価・行動を測定し、同一の被験者に対して上述の「間人度」尺度、さらに集団
同一視尺度、自意識尺度など関連する個人差測定がおこなわれた。現在、資料の分析はま
だ十分でないが、集団成員としての評価・行動とこれら個人差要因とのかかわりが分析さ
れる予定である。
 一方実証作業の一環として、理論的主張である「間人」概念を特性概念として操作的に
とらえて作成された「間人度」尺度に関して、実際の実験状況において使用するにあたっ
て考慮すべき諸事項、例えば概念妥当性や他の類似概念との間の理論的・経験的弁別性等
に関して、研究分担者およびその他の専門家との討議をおこない、また実際の実験・調査
研究の具体化に向けて計画が進行中である。これらについては、本報告書の第9章、およ
び第10章の特に実証計画案の部分により詳細な記述がなされている。
 「間人度」尺度の実証的検討という点では、さらに類似概念との経験的弁別性の確認の
ために、2000年度に合計105名の大学生からの回答をもとに、Sigger, J.による「集合
的自己評価尺度」(翻訳)、「集団主義尺度」、Brown, R.らによる「集団同一視尺度」(翻
訳)、菅原(1984)による「自意識尺度」、岩淵らによる「セルフモニタリング尺度」、高
田(2000など)による「相互独立的-相互協調的自己観尺度」との関連が検討されてい
る。結果の詳細については今後学会などで発表される予定である。
 なお本報告書の第10章および第11章にあるとおり、2001年2月上旬には初年度から
の懸案であった英国側共同研究者のひとりエイブラムズ教授の招聘計画を実施し、前橋、
東京、大阪の3カ所での研究セミナーを開催したほか、「間人」概念の提唱者である濱口
恵俊氏(滋賀県立大学)との討論を実施した。詳細はこれらの章を参考されたい。
 なお、英国での英語簡略版間人度尺度項目を用いた調査は現在も継続中であり、その結
果については今後、学会等で発表されることになる。

引用文献
Brewer, M.B. and Roccas, S. 2001 Individual values, social identity, and optimal 
distinctiveness. In Sedikides, C. & Brewer, M.B. (Eds.) Individual self, 
relational self, collective  self.  Philadelphia: Psychology Press.
濱口恵俊 1982 日本人の人間モデルと「間柄」. 大阪大学人間科学部紀要, 8, 207-240.
Karasawa, M.  1991  Toward an assessment of social identity: the structure of 
group identification and its effects on in-group evaluations.  British Journal of 
Social Psychology, 30, 293-307.
柏木恵子・北山忍・東 洋 1997 文化心理学―理論と実証 東京大学出版会
菅原健介 1984 自意識尺度(self-consiousness scale)日本語版作成の試み. 心理学
研究, 55, 184-188.
高田利武 2000 文化的自己観の社会的行動への影響過程 ―文化間・文化内変動の相関
関係の実験的検討― 平成10・11年度科学研究費補助金(基盤研究C)研究成果報告書