これは日本社会心理学会第40回大会発表論文集[346-347頁]に掲載された研究報告の一部を
再録したものである。図表は省略してある。なおこの研究には平成9-10年度文部省科学研究費
奨励研究(A)課題番号09710110による補助を受けた。
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集団間差別における自動的成分の測定指標の開発

◯柿本 敏克(Kakimoto Toshikatsu)
(山形県立米沢女子短期大学 社会情報学科〔当時〕)

キーワード:集団間差別、自動的成分、測定指標開発


問 題
 集団間関係の特質に関する研究には、内集団成員を外集団成員よりも好意的に評価・処遇するという内
集団バイアス現象に注目したものがしばしば見られる。そのうち柿本(1992など)は、この内集団バイ
アス現象に意図的成分と自動的成分の2つが存在することを仮定し、この仮定のもとで「注意の撹乱」変
数を操作して両成分を分離する試みをしている。そこでは注意の撹乱が意図的成分には干渉し、自動的成
分には干渉しないと仮定され、各実験を通してほぼ予想どおりの結果が得られている。すなわち、意図的
成分を測定すると考えられる指標(得点分配における内集団バイアス)には注意の撹乱の影響が見られ、
自動的成分を測定すると考えられる指標にはそれが見られなかったのである。
 しかし一定の指標にある影響が見られたか否かの判断は、検定理論上の問題もあり、他の諸指標の結果
との比較の上で相対的に決めざるを得ない。従って、ある指標が絶対的な意味で自動的成分を(また別の
指標が意図的成分を)測定すると安易に仮定することはできない。実証と理論の両面で、自動性・意図性
という特徴づけが妥当性をもつかに関する検討努力を積み重ねていくことが不可欠であり、さしあたって
は当該指標の妥当性を様々な角度から検討することが要請される。
 本研究ではこれまでの研究で十分になされていなかったこの測定論上の問題に取り組み、まず、自動的
成分指標の反応特性を明らかにすることが目的とされる。このことによって、さらに、より適切な測定指
標を開発することが可能になると思われる。
 内集団バイアスの自動的成分の測定指標の一つとして、先行研究では評価評定尺度、および「色デーシ
ョン帯」尺度(Kakimoto, 1994)が用いられてきた。このうち後者が理論的にもデータ上でも、より自
動的成分測定に適切であると考えられる。そこで本研究では内集団バイアスの自動的成分を測定するため
の指標として「色グラデーション帯」尺度をとりあげ、その測定論上の諸特性を探る。

研究1
 Kakimoto(1994)では「色グラデーション帯」尺度は実験的に構成された集団状況の、被験者による
認知的集団分化の度合を色のイメージの違いとして投影的に測定するためのものであった。先行研究での
具体的な測定法は、最小条件集団状況のなかで集団分けをした後、個々の従属変数冊子上に貼り付けられ
た色グラデーション帯上で、被験者に所属集団と対応集団のイメージの場所に印をつけてもらうというも
のであった。しかしこのやり方には、方法的な弱点がいくつか認められた。
 まず、1つの色グラデーション帯上で2つの集団の位置を被験者に表示してもらい、その2点間の距離
を集団間分化の度合とみなしたが、(集団のイメージに対応する色の位置に印をつけるようにと教示はす
るものの)被験者がいかなる基準でその場所を選ぶかが明らかでなかった。例えば色合いと関わりのない
分割の美しさ(「黄金分割」など)などが影響している可能性を否定できない。これは、集団間分化の度
合の大小が、何を基準として判断されるかという基準点の問題とも関わる。2点間が何B離れていると、
どの程度の分化があったと判断できるのだろうか。
 また個々の従属変数冊子に色グラデーション帯尺度を貼り付ける作業を必要とするこれまでの方法は、
準備の負担が大きいだけでなく、作成・使用される色グラデーション帯が恣意的なものとなりがちである。
 そこで本研究では色相、彩度、明度を数値的に統制した色グラデーション帯を作成し、さらに集団的呈
示によって被験者の反応をとることのできるような呈示法の確立を図る。また各種の教示(分割比率の美
しさ、集団イメージ、色強調)を用意し、それぞれの教示のもとでどのような反応が得られるかについて
基礎的資料を収集する。

方 法
 この目的を達するため、パソコン上で作成された色グラデーション帯を、接続されたプロジェクターで
スクリーン上に投影することで集団的に呈示し、反応を測定した。
 装置 パソコン(Macintosh PowerBook520)上の描画ソフトで作成した「色グラデーション帯」を、
接続したプロジェクター(EPSON ELP-3500)から5.5m前方の白色スクリーンに投影した。通常の講
義室内を暗幕で遮光し、室内の蛍光灯を一部点灯した上で、プロジェクターの光量は最大、ズームは最小
に設定した。「色グラデーション帯」は白色帯、赤白帯、赤青帯の3種を作成した(詳細は発表当日に述
べる)。
 被験者 大阪大学人間科学部学生21名。
 手続き 一般的注意の後、被験者を便宜的に集団分けするため任意のペアを作り、ペアのうち「じゃん
けん」で勝ったものを「赤組」、負けたものを「白組」と名づけた。その後、先述の3種類の「色グラデ
ーション帯」について、次の3つの教示のもとで回答を求めた。
 教示a:「区切り場所の番号を2つ選び、最もよいと思われる比率で3つに分割して下さい。」(よい比率
教示)
 教示b:「先ほどのじゃんけんで決まった赤組と白組の人たちを思い浮かべて下さい。それぞれの組の人
たちのイメージは、次の色バンドのどこに属すると感じますか。それぞれについて、最も近い場所の番号
を記入して下さい。」(集団イメージ教示)
 教示c:「再び先ほどのじゃんけんで決まった赤組と白組の人たちを思い浮かべて下さい。それぞれの組
の人たちのイメージは、次の色バンドのどの色に一番近いですか。それぞれについて、最も近い場所の番
号を記入して下さい。」(色強調教示)
 教示および「色グラデーション帯」の呈示順序はす被験者について次の通りであった。1.教示a・白色
帯、2.教示a・赤白帯、3.教示b・赤青帯、4.教示b・赤白帯、5.教示b・赤青帯、6.教示c・赤白帯、7.
教示c・赤青帯。

結果と考察
 被験者の回答した番号(最小1、最大15)そのままを測定値とし、その平均と標準偏差を教示の種類と
「色グラデーション帯」ごとにTable1に表示した。
 教示c(色強調教示)のもとでは他の教示のもとでよりも標準偏差が一般に大きかった(3.14〜4.59)。
その他、被験者の集団所属による回答パターンの違いがいくつか見られたが、詳細は考察とともに発表当
日に報告される。またこの集団呈示法を、通常の最小条件集団実験のなかに組み込み、さらに自動的成分
の検出に有効と考えられる「注意の撹乱」操作の有無を操作した研究2の詳細についても当日発表の予定
である。

引用文献
柿本敏克 1992 ディストラクションと社会的カテゴリー化の 効果:認知過程と動機過程の測定法につ
いて 日本社会心理学 会第33回大会発表論文集, 58-59.
Kakimoto, T. 1994 Measurement of the processes in intergroup 
 discrimination. Paper presented at the 23rd International Congress of  Applied Psychology, 
Madrid.