・赤城山覚満淵
群馬県赤城山の上部、大沼の南東に位置する小さな湿原である(図1、写真1)。かつては大沼の一部であったものが、水位低下により湿原となって残った場所である。標高1360mに位置し、湿地帯は長さ1000m、幅500mで、南東から北西に細長く存在している。覚満淵の上方は駒ヶ岳の斜面へ続き、この斜面を流れ落ちる水が注ぎ込む湿原が覚満淵となっている。覚満淵の水は、覚満川となって大沼方向へ流失する(県立公園ガイドマップ 2004)。群馬県の管理下にあり、近年は利用者優先の観点からワイド木道の整備が行われている一方で、覚満淵自体の乾燥化と利用者増およびワイド木道整備による攪乱・木道下の乾燥化によって、植生の著しい衰退がみられる。(新岡 2001、大川 2005)。
・ 玉原湿原
武尊山の山麓に広がる日本海型ブナ林に囲まれている玉原高原にある湿原である(図1、写真2)。植生の珍しさから尾瀬にたとえ「小尾瀬(こおぜ)」とも呼ばれており、4月上旬から5月中旬に開花するミズバショウを始め、四季を彩る草花を見ることができる(沼田HP 2009)。管理は沼田市が担当するが、観光の拠点であるとして整備すると同時に、観光客がむやみに湿地内に侵入するのを防ぐとともに木道下の環境保護を考えた非ワイド型の木道を設置している。短期的な観光利用だけでなく長期的利用も視野に入れた湿原生態系の保全を目指すが、市の職員のみでの管理には限界があると判断し、当地の管理指針を東京農工大学農学部地域生態システム学科生態系計画学講座植生管理学の福嶋司教授らの学術調査に求めている(福嶋 2005)。
・(株)アドバンテスト ビオトープ
群馬県邑楽郡明和町、株式会社アドバンテスト群馬R&Dセンタ2号館敷地内に2001年4月に竣工した大型ビオトープである(図1、写真3)。本ビオトープは、半導体試験装置等の開発・製造業者であるアドバンテスト社が、環境保全活動の一環として、自然環境との共生をうたって構築したものである。本ビオトープの面積は約17,000?と、民間企業所有としては国内最大級の規模のものである。ビオトープは工業団地の一角に位置しており、建設前の用地は、雑草がまばらに育成する程度の裸地であった。敷地周辺は水田が広がり、畑地、雑木林などが点在しており、敷地北側には谷田川が、約2km南には利根川が流れている(高橋 2009)。ビオトープ内には元々更地だった場所に丘と池を造成し、その間を人工の小川で結んでいる。積極的かつ継続的な育成管理により、水辺を含む地域固有の自然環境の再生を目指している。
・板倉地域ウエットランド(渡良瀬遊水池・行人沼・朝日野池)
群馬県南東部に位置し(図1、渡良瀬川、渡良瀬遊水池、利根川、谷田川及びその周辺に位置する池沼群があり、河川蛇行域の氾濫原が発達した地域で、自然堤防に挟まれた後背湿地や河跡湖がみられる。本地域は群馬の水郷地帯とも呼ばれ、県内で最も低い標高10mから20mの低地帯である。沖積低地、あるいは洪積台地の浸食谷に出来たウエットランドが集中する県内唯一の地域である。ウエットランドは生物相の豊かさ、高い生産能力、そして健全な地球環境維持のための重要な生態的役割を有し、森林や海洋と並ぶ重要な環境の一つであるといわれている(大森、青木 2009)。このウエットランドの中でも最大の面積を誇る渡良瀬遊水池は、面積33平方キロメートルという日本で6番目、本州では1番目に大きな湿地帯である(写真4)。渡良瀬川、思川(おもいがわ)・巴波川(うずまがわ)の流量を調整し、洪水を防ぐことを目的としている。
渡良瀬遊水地の自然環境は緑豊かな広大なヨシ原が特徴で、遊水地全体の面積の内、植生の約半分がヨシ原である。これほどの環境を持つヨシ原は稀で、全国でも最大級の規模を誇り、本来の低地の自然環境が保全されているところとして、貴重な存在となっている((財)渡良瀬遊水地アクリメーション振興財団 2009)。また、ウエットランドと呼ばれる池沼群から渡良瀬遊水池の他に、多数の絶滅危惧種が見出された(大森、青木 2009)、朝日野池(板倉ニュータウン南調整池)(写真5)と、県自然環境保全地域に指定されている行人沼(写真6)を調査した。
・西榛名(東吾妻町・高崎市)
烏川水系の上流、群馬県の榛名山西麓と浅間隠山から東に延びる山稜の末端部の間に位置し(図1)、東吾妻町と高崎市倉渕町の一部である(写真7)。標高は400-800mで、大部分は農耕地と二次林が集落に隣接して立地している。また炭を生産しているのに加えて、特産品であるきのこやミョウガの栽培に原木や保温用の落ち葉が必要なため、伐採や落ち葉かきが定期的に継続された二次林が広い範囲で残されている(大森 2008)。気温は日中高く夜間は冷え込むという山地特有の気候ではあるが、冬の積雪量は少ない地域である(高崎市倉渕支所HP 2009)。
・ 石田川流域(太田市)
群馬県太田市および埼玉県熊谷市を流れる利根川水系の河川である(図1、写真8)。今回の調査では利根川合流地点以北の、太田市牛沢町および米沢町付近、また太田市新田大根付近の「ホタルの里公園」「妙参寺沼親水公園」および太田市新田上田中付近の「天沼親水公園」の、石田川が流れる3カ所を調査した。
群馬県伊勢崎市世良田付近の、休耕田および畦である(図1、写真10)。この休耕田には田んぼとして使用されていないものの、除草のため水が引かれている。
栃木県佐野市内の人丸神社横の湧水を源流とする農業用水路である(図1)。佐野市内を流れ、下流において群馬県との県境を形成し、渡良瀬大橋直下で渡良瀬川と合流する。2008年の調査(柴宮 2009)によって、下流端において、特定外来生物ミズヒマワリと、オオセキショウモ、ホテイアオイが繁茂していることが報告されている。