結論

群馬大学構内混交林、玉原高原ブナ林の両調査地において、リター分解速度と土壌CO2放出速度が、地温や土壌含水率などの物理的環境条件、リター層の厚さやリターの質、ひいては土壌微生物活性の影響を受ける可能性が示された。また、これらの値が林内の場所や季節によって異なることが明らかになった。これらの結果は、今後の森林生態系の収支を算出する際に、慎重に考慮に入れることが不可欠である。土壌CO2放出速度は地温が上がると高くなることが両調査地の結果から検証された。したがって、このまま地球温暖化が進行すれば、リター分解速度はより高くなり、土壌CO2放出速度もより高くなるかもしれない。

本研究ではリターバッグ法の精度向上のため、リターバッグ設置時に周辺のリターを回収し、回収したリターの含水率から設置したリターの含水率を推定することを試みた。しかし、この試みは一部うまくいかなかった。今後はリターの含水率をより正確に測定できるように、リターバッグ法をさらに改良していく必要がある。

京都議定書において、森林などの陸上生態系による一定条件内の二酸化炭素吸収量を排出削減量の中に加味してカウントできることが決められた。日本においてはこの森林生態系によるCO2吸収が大きく期待されている。しかし、単に植林を行うことにより森林生態系のCO2吸収量が増大し、地球温暖化対策になりうるという考え方は安易であるといえる。なぜなら、森林生態系が全体としてCO2吸収をしているか否かは、林床におけるリターの分解と土壌からのCO2放出に大きく依存しているからである。もしも温暖化や不適切な森林管理によって林床の地温も上昇するならば、リター分解と土壌CO2放出が加速されて、森林生態系の収支CO2がマイナスに傾く危険性があるからである。

CO2吸収源として算定されるのは、いまのところ「植林」および「管理された森林」であるが、これを重んじるばかりに、手をつけない方がよい天然林に手を加えるようなことは避けるべきである(藤森 2004)。すなわちCO2吸収機能を高めることだけが先行して、森林生態系のそれ以外の重要な機能(水源涵養や土壌流出防止、生物多様性保全など)を犠牲にしないように注意する必要がある。

従来土壌CO2放出速度とリター分解速度は、森林内のごく限られた地点において測定され、これをもって森林全体の代表値とみなすことが多かった。これはもちろん、測定機器が高価であったことや、測定にかけられる労力・時間の限界を考慮してのことであるが、得られた結果の代表性、信頼性についてはあまり検討されていなかった。これに対して本研究においては、安価かつ短時間で測定できる機器を導入して、確信臨調幸に多くの測定地点を設け、測定地点ごとに土壌CO2放出速度・リター分解と地温・土壌含水率の関係を詳細に比較検討した。その結果、各測定地点における測定結果の間には、土壌含水率と地温では説明できない分散成分があることが示され、土壌微生物活性やリターの厚さやリターの質など、従来は未検討な要因が影響していると考えられる。

今後、森林におけるCO2収支をより精緻に解明する研究を進める上では、こうした森林内での土壌CO2放出速度の多様性に留意しなければならない。その上で、森林を破壊・劣化させることなく、森林の質を向上させていくことが地球温暖化対策として重要である。