概要

地球温暖化は、人類社会が直面する最も大きな問題の一つであり、CO2などの温室効果ガスの大気中濃度が上昇することにより起こる現象である。IPCC第4次評価報告書によると、二酸化炭素の世界的な大気中濃度は、工業化以前(1750年)の約280ppmから2005年には379ppmに増加した。また、SRES排出シナリオの範囲では、今後20年間に、10年当たり約0.2℃の割合で気温が上昇すると予測されている。地球温暖化の原因である温室効果ガスの大部分をCO2が占めているため、温暖化の防止対策としてはCO2排出量の削減と吸収源の確保が必要である。日本ではCO2吸収源として森林の役割が大きく期待されており、2005年に発効した京都議定書においても森林生態系のCO2吸収量の一部が削減量として認められている。しかし、実際の森林生態系によるCO2収支の値は明らかになっていない。森林生態系を実効性のあるCO2吸収源として位置づけるためには、様々な森林生態系のCO2収支を調べ、それに対する諸環境要因の影響について研究する必要がある。

そこで本研究では、立地と構成樹種の異なる2つの代表的森林生態系(群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林)において、リターの生産・分解量、汎用CO2放出測定システムによる多点測定を行った。これらによって、リター分解速度と土壌からのCO2放出速度の定量化、およびこれらと環境条件(地温、土壌含水率)の関係を解析することを目的とし、調査を行った。

地温と土壌CO2放出速度の間には、群馬大学構内混交林と玉原高原ブナ林の両調査地いずれにおいても、有意な正の相関がみられた。しかし、土壌含水率と土壌CO2放出速度の間には、群馬大学構内混交林において有意な正の相関がみられたが、玉原高原ブナ林では有意な相関はみられなかった。すなわち、群馬大学構内混交林では地温・土壌含水率の高い夏期に土壌CO2放出速度は高くなり、地温・土壌含水率の低い冬期には低くなったと考えられる。また、玉原高原ブナ林では1年を通して土壌含水率が高くなっているため、土壌CO2放出速度の季節変動は地温に大きく影響を受けていると考えられる。

土壌CO2放出速度は、両調査地において測定地点間で有意な差異がみられた。群馬大学構内混交林においては、6月に地点13で最高値(2.8g/hr/u)をとった。7・8月には、地点15で連続して値が高く(1.5 g/hr/u)、これに比べると地点9では6・7月に連続して値が低かった(0.1〜0.3 g/hr/u)。玉原高原ブナ林においては、7月に地点13で最高値(3.7 g/hr/u)をとった。8・9月には地点3で連続して値が高く(2.8〜3.1 g/hr/u)、これに比べると地点2では連続して値が低かった(0.3〜0.7 g/hr/u)。こうした地点間の持続的な変異は、リター量(リターの厚さ)の違いの他に、土壌微生物・植物根の量的違いなどに起因しているものと推察される。

平均年間リター分解速度は、群馬大学構内混交林で0.0016?0.0021(g/g/day)、玉原高原ブナ林で0.0007?0.0015(g/g/day)と両調査地においても立地間でも大きな差異がみられた。こうした立地間、調査地間のリター分解速度の差異は、温度・土壌含水率といった物理化学的環境条件の違いと、リターの質の違いにより引き起こされたものと推察される。

今後、地球温暖化を防止するためには、異なる特徴を持つ森林生態系のCO2収支を計測し、変動原因を正確に解明する必要がある。そして、日本全体として森林生態系により、どの程度のCO2吸収能力があるのかを解明する必要がある。