調査地概要

群馬大学構内混交林

群馬県前橋市北部の群馬大学荒牧構内混交林は、アカマツ植林地から二次的に成立した林であると考えられ、アカマツ林からクヌギ・コナラ林へと遷移する途中の、関東広陵地に多い里山(恒川 2001)の典型と位置づけられる。ここはもともと利根川の河川敷であり、赤城山と榛名山に挟まれた関東平野の北端に位置する。

アカマツ、コナラ、シラカシ、クヌギ、イヌシデなどの成木からなる林床にはほとんど草木はなく、シラカシの稚樹が多数生育している。1003uの調査地区内では成木147本(うちアカマツ63本、コナラ26本、クヌギ47本)が分布し、立木密度は、1haあたり約1466本と算出された(町田 2005)。

玉原高原ブナ林

玉原高原は、武尊山(2158m)の西山麓に広がる標高1150〜1600m、面積約900haの溶岩台地であり、武尊山の後期の火山活動で溶岩が流出してできた層が、あまり侵食を受けずに取り残された地域と考えられる。東に鹿俣山(1637m)、北にブナ平(1300m)、西に尼ヶ禿山(1466m)と三方を山と尾根に囲まれ、南だけが大きく開いている。玉原高原から南は急角度に高度を下げ、池田地区から沼田段丘地へと続く。

地理的には太平洋側に位置しているが、気候は日本海側気候区に属している。年平均気温約9℃、最高気温25℃(7月)、最低気温−9℃(1月)。年降水量1545mm。積雪3m内外、初雪11月20日、終雪4月20日、根雪日数110日。土壌は平尾根や緩斜地は褐色森林土、沢沿いは湿性褐色森林土である。

玉原高原に生育する高等植物の種類は、変種、品種を含めて102科600種に達する。内訳はシダ植物が8%、種子植物が92%で生活型では木本が31%、草本が69%となる。その中に多数の日本固有種、とくに日本海要素の植物が見られるのが特徴的である。

大部分は日本海側型のブナ林でおおわれ、その間にスギ、ヒノキ、カラマツの人工林が介在する。一部のヒノキ林にはダケカンバが侵入し、外観がダケカンバ林のようになっている所もある。鹿俣山や尼ヶ禿山の上部には、小規模ながら亜高山性の風衝地低木群落のミヤマナラ低木林も見られる。北西部には大小5つの湿原があり、低層湿原から高層湿原までの植生が混ざり、複雑な群落を形成している。湿原や十二沢の泥湿地にはミズバショウが群生する(宮前 2000)。

ブナ科の植物は世界に8属、700種以上が知られ、世界の熱帯から温帯にかけて広く分布している。日本には5属22種が分布する。ブナのほか、いわゆるカシやナラ、クリ、シイなど、なじみ深い多くの植物が含まれる。コナラ属の一部やブナ属、クリ属など温帯に分布するものは冬に葉を落とす、いわゆる夏緑樹(落葉樹)であるが、それ以外の地域に分布する種は、大部分が常緑性の種である。ブナ科には、低木性の種も少数見られるが、大部分の種は樹高20m以上の高木になり、多くの場所で森林の主要な優占種となっている。ブナ林やナラ林のほか、シイ林やカシ林、すなわち照葉樹林の多くもブナ科の優占する林である(原 1996)。