コウボウムギの実生はなぜ少ないのか?−発芽条件と生存率からの解析−

コウボウムギ(Carex kobomugi Ohwi)は、日本の海岸砂丘植生を代表する植物である。コウボウムギは毎年多くの種子を生産するにも関わらず、野外で実生個体を見ることはほとんどないと報告されている。また、コウボウムギの種子は、ほとんど発芽しないという実験結果もいくつか報告されている。しかしこれらの発芽実験は、コウボウムギ種子を無処理のまま用いており、休眠が解除されているとは考えにくい。すなわち、種子の発芽能力が低いことを、コウボウムギの実生が野外でほとんど見られない理由の一つとは断定できない。そこでまず発芽条件の特定を試みた。種皮を硫酸で溶かして不透水性を解除した種子を、3〜6週間4℃で低温湿層処理して胚の後熟を促した後、25/20℃(昼/夜)でインキュベートしたところ、60〜80%が発芽した。すなわち、発芽条件が複雑ではあるが、コウボウムギの種子は、潜在的には高い発芽能力を有していることがわかった。次に茨城県大野村角折海岸で、実生個体群の運命を1989〜91年の3年間追跡した。毎年4〜6月に実生の出現が認められたが、夏にはそのほとんどが消滅し、最後の年の6月には全実生が死滅した。以上の結果から、コウボウムギの実生が野外でほとんど見られないのは、発芽条件が複雑で、野外ではなかなか条件が整わず、発芽するチャンスが少ないことと、たとえ発芽できても、生育初期の死亡率が非常に高いことであると考えられる。

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