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草津本白根山山頂付近の植生パターンとその生成要因


石川真一・野村哲(群馬大学・社会情報)・徳増征二(筑波大・生物)・田村憲司(筑波大・応生)・阿部淳一(筑波大・農学)
日本生態学会第48回大会(2001年3月26〜31日、熊本県立大学)にて発表。
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 上信越高原国立公園内に位置する草津本白根山(標高2165m)は、コマクサの再生・植裁地として有名で、毎年多くの観光客が訪れる。この一帯は高山植物が豊富であり、地元群馬県草津町をはじめ多くの自然保護関連団体が、高山植物の保護をうったえている。一方当地一帯の植生分布は、第二回自然環境保全基礎調査(1981年、環境庁)によりその概略が記載されているにとどまっている。近年の観光客の激増や環境変動の中で、当地の高山植生を保全していくためには、詳細な植物分布パターンの解明と、それを生成している要因の解析が急務である。本講演では、まずは手始めに以下の解析結果を示す。
 1.空釜内の植生垂直分布の逆転現象
空釜は本白根山山頂直下の爆裂火口で、約3000年前に形成された。火口底が標高2076m、直径約300mで、周囲からは40mほど窪んでいる。この火口壁では、標高の高いところには主としてダケカンバ・シラベ帯であり、低いところにはハイマツ・コケモモ・クロマメノキ帯である。また火口底はミヤマハナゴケ、コメススキ、イタドリ、ミネヤナギなどが分布する低木・草原帯をなしている。この火口一帯に温度ロガーを設置し、99年10月より2000年7月まで標高別に気温を測定した。厳冬期(12月〜2月)には、ダケカンバ・シラベ帯の分布高度で他の高度域よりも気温が5℃以上高かった。火口底の草原地帯では、6、7月の気温が火口上部よりも3℃以上高かった。また火口底は火山放出物未熟土であった。以上のことから、空釜内の植性分布パターンが、気温の垂直分布パターンと土壌環境によって生成されたことが示唆された。
 2.コマクサのミクロ分布パターン
 空釜内とその周辺には、構造土と呼ばれるきわめて稀少な地形が広がっている。これは長年の環境の季節変化によって、礫がサイズごとに篩い分けられて帯状または亀甲状模様を呈するものである。コマクサはこの地形上に分布または植裁されているが、ほとんどが大きな礫の帯の上に生育している。構造土が形成される際、霜柱によって砂礫が移動するが、小さな礫のあつまる部分がそれである。つまり、小さな礫の帯上ではコマクサは土壌の移動により生育が困難となり、このような分布パターンが生ずるものと考えられる。
 3.火口底植物の”菌根度”
 火口底の植物の根を調べた結果、その大半が菌根性であった。主な種は、コメススキ、ガンコウラン、ミネヤナギなどである。



この研究は、文部省(現・文部科学省)科学研究費補助金 基盤研究(C) (課題番号 11680525)(平成11〜12年度)により、
「火山地域の地形景観と植生景観の協調的保全方法の確立のための基礎的研究」というタイトルで助成をうけました。